~ほんとうにあった人探しの話~
「あの時、どん底でした…私。」
50代後半のご依頼者の女性は、
自分の頭に中に映し出される光景を順番に確認しているかのように、ぽつりぽつりと話し始められました。
目次
大切な人との出会い
「当時は何もかもうまくいっていなかったんです。」
ご依頼者はそうつぶやいた後、ご自身の離婚のお話や、仕事場での人間関係が上手くいかなかったことなどを話されました。
「たまたま通った川沿いにある店に入ったのよ。本当に小さい店で、カウンターしかないような。」
ご依頼者は、そこでMさんにお会いしたそうです。
「Mさんもね、当時は色々悩んでて、直ぐに気が合ったのよ。」
偶然、同じ店で隣同士になった二人の若い独身の女性同士は、その日から度々その店で落ち合い、毎晩のように飲みながら語り合ったそうです。
いつのまにか空いてしまった距離
「彼女は心の支えだったのに…。」
月日が流れ、ご依頼者も仕事場が変わり、Mさんも結婚して遠方に引っ越されたそうです。
「何年かは年賀状とのやり取りとかしていたのよ。
娘さんが産まれてからも。でもね、ある時から年賀状も来なくなって、
私も自分の事で精一杯で、徐々に彼女の事を忘れていったんです。」
ご依頼者は、まるで恥を語るようにうつむきました。
「でも、最近、ようやく自分お身の回りが落ち着いたせいなのか、度々彼女のことを思い出すんです。」
ご依頼者は、Mさんが自分にとって、どれほど大切な友であったか、そして、どれほどMさんとの連絡を蔑ろにしてしまった自分に後悔しているかを語ってくれました。
ご依頼者から頂いた情報
ご依頼者から頂いたMさんに関する情報は、本当に僅かでした。
①氏名
②15年以上前の住所
③生まれた年
④娘がいるという情報
調査開始
探偵はまず、Mさんの15年前の住所を訪ねました。
都内から一時間以上かかる不便な場所にあるマンションは、周囲を畑で囲まれ、まるで地方に来たような感覚・・・
探偵は,日が落ちるまで聞込み調査を続けた結果、Mさんのご主人が学校の先生であること。娘さんが一人だけいたこと、15年くらい前にご主人の都合で、ある県に引っ越したことだけがわかったのです。
その後、様々な調査方法を駆使した結果、東京近郊のある県に所在する一軒家が、Mさん家族の移転先である可能性が出てきました。
少し小雨の降る冬の午後、探偵は新人探偵ちゃんを連れて、その家を訪れました。
その家があったのは、狭い通りを挟み、両脇に同じタイプの建売住宅がずらっと立ち並ぶ閑静な住宅街でした。
雨の中、一軒家への訪問
インターフォンを鳴らしますが、生憎の留守。
近所の方に聞込みしたところ、あと1時間は帰ってこないとの事。
周囲に店もなく、探偵と新人探偵ちゃんは、小雨の中ブルブルと震えながら二人で傘を寄せ合い、住宅地の隅で帰りを待ちます。
1時間を少し過ぎた頃でした。
該当宅の駐車場に一台の車が入り、中から50代後半の女性が現れたのです。
「突然申しわけございません。Mさんでいらっしゃいますか?」
探偵は女性に訪ねます。
「はい、そうですが・・・」
ビンゴです!
そんな時、脳内でファンファーレがなっているような感覚があるのは、もしかして探偵あるあるではないでしょうか。
依頼者からのお気持ちを伝えます
探偵は早速、ご依頼者がお会いしたがっていることをMさんに伝えます。
この時もしもMさんが、ご依頼者に「会いたくない」「繋がりたくない」とおっしゃられる場合、残念ながら探偵は、ご依頼者にMさんの情報をお伝えすることができません。
何故なら、望まぬ相手に個人情報を伝えることは、探された相手に精神的苦痛を与えることに繋がりかねないからです。
ですから、探し出した相手に、ご依頼者とお繋ぎして良いか確認する瞬間が、人探しの調査で最も緊張する場面でもあるのです。
探偵が慎重にご依頼者の事をMさんに伝えますと、ご依頼者の名前を聞いた瞬間、Mさんの顔に驚きと喜び色が溢れました。
電話での再会
「もしよかったら、今お電話でお繋ぎできますが。」
探偵がそう提案すると、Mさんは
「本当ですか?是非、是非お話したいです!」
そういって、目をキラキラさせられました。
探偵の携帯からご依頼者に電話をして、Mさんにお繋ぎします。
「本当に?本当に?○○ちゃん?うれしい!すごいうれしい!」
うれし泣きしながら、電話でご依頼者と話すMさんの姿を見て、探偵もついウルっとしてしまいます。ふと隣にいる新人探偵ちゃんを見ると、静かに号泣しておりました。
ご依頼者との電話を終えると、Mさんは我々に申し訳なくなるほどお礼を言われ、ご依頼者と後日、直接会う約束をされたと教えて下さいました。
新人探偵の涙
気が付けば、あたりは夕暮れ時。雨もいつの間にか止んでいました。
帰りのバスが来るのは20分後。
探偵は自販機で缶コーヒーを2本買い、1本を新人探偵ちゃんに手渡します。
「ありがとうございます。」
新人探偵ちゃんは、缶コーヒーを受け取ると、大事そうに両手で抱えながら言いました。
「この仕事、やらせてもらってよかったです。」
「うん、本当だね。」
バス停のベンチで、新人探偵ちゃんと並んで飲む缶コーヒーは、
いつもよりずっと甘く、美味しく感じました。
後日、ご依頼者からは、Mさんと数十年ぶりに過ごした時間がどれほど素晴らしかったかという報告と、丁寧なお礼の言葉をいただきました。
きっと、ご依頼者とMさんは、これからもずっと、お互いに「心の友」であり続けるのでしょうね。
素敵な瞬間に立ち会わせていただき、本当にありがとうございます。